あたまにくるよ。まったく

恒介の絵はいいけど

パパの絵は全然よくないと言われた

喧嘩してるわけではなく

普通の会話で

ことばはしばらくこだましていた

パパの絵は全然よくない よくない よくない

投げ込まれた言葉がうがった穴のなかで

わんわんわんとこだましてひろがっていった

着替えながらそれは、だんだん怒りの形に変化していった

そんな言い方しなくてもいいじゃないの

僕がママの大切にしている趣味を

そんな言葉でディスることがあっただろうか?

絵は僕の生きがい

仕事でうまくいかないことがあっても

仕事で自尊心を保てないことがあっても

人生がうまくいかないことばかりでも

絵は僕を癒してくれた

絵は僕の人生に居場所を与えてくれた

吹き出した怒りは

僕の頭の中をかけめぐり

ギターを弾いても

風呂にはいっても

も一度ギターを弾いても

熱くてダウンを脱いでも

まぎれることなく増幅し

ぐるぐるどんどん大きくふくらんでく

絵のことで頭にきてるのだから

絵なんか描けないし

飲まないつもりでいた

ビールをのんだ。しかたなく

パソコンでUtubeを見ながら

つまみもなく しかたなく

絵の番組は見れない

絵のことで頭にきてるのだから

ああ面白くない

寝てわすれよう

リビングではミーちゃんとママが

テーブルをはさんですわっていた

怒ってるパパが上がってきた

バカみたいだね。何怒ってるんだか?

二人の間に横たわる空気が

そんな周波をおくってきた

仕方なくベッドにはいった

ほどなく眠りについた

一晩中絵の事を考えていた

眠りながら絵のことを考えていた

こんな日の為に絵が僕にあったはずなのに

今日は絵では癒されない

ママは、僕と喧嘩したかったのではない

自分の心を正直に口にしただけ

喧嘩して悪意で言ってもらった方が

まだ救いがあったかもしれない

だって彼女は本当に全然よくないものを

全然よくないと言ったにすぎないから

ママは正直だな。でも正直なことが

いつもよいとは限らないよね。神様!

今日は食器の片付けもゴミ出しもなし

洗濯機は眠ったまま。洗面台も拭かない

ティっちゃん、ごはんはママが起きてくるまで待ってね

昨日履いた靴もそのまま置いてきたよ

毎朝の当たり前のルーティン

やらないとこんなに早く家を出られるんだな

ああ、これから僕はどういきていこう

絵のない世界でどうしたらいいのだろう?

本当にあたまにくるよ

あたまにくるよ。まったく